[特別企画] モノト・シチュエーション 阿部氏/庄子氏へのインタビュー

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Published 2017年10月15日 by 編集長 田口

unferno studioが手がけるiOSアプリ「MONOTO-SITUATION : LUCID AND DAYDREAM」(以下、モノト・シチュエーション)。

2017年某日、その監督である阿部貴弘氏と、GETENpro作曲家/音楽プロデューサーの庄子智一氏にインタビューをする機会が得られた。そのインタビューで、監督と作曲家が目指したもの、制作秘話について語っていただいた。

2017年5月7日にモノト・シチュエーション vol.1のレビュー記事を執筆して以来、実に5か月。vol.2のリリース日も決まったこの機会に制作サイドの想いや意図を読者の皆にお伝えしよう。

阿部貴弘氏がつくりたかったもの

田口:
まずはモノト・シチュエーション vol.1をクリアさせていただいたのでご報告します。いやぁ、ストレートに楽しかったですし、続編がとても楽しみです。

阿部:
ありがとうございます!

田口:
モノト・シチュエーションをプレイしてみて色々と画期的なところがあって、まずシステム面について聴かせてください。そもそも論ですが、選択肢付きのゲームは考えていなかったんですか?

阿部:
選択肢というシステムをやった時にリスクが大きすぎたんです。クオリティを維持できる可能性が低い。なので最初から選択肢は考えていませんでした。ノベルゲームが作りたいわけでも読み物を作りたいわけでもなく、アニメーションが作りたかったので。


阿部貴弘氏。今回のインタビューではモノト・シチュエーションの制作における工夫なども語ってくれた。

田口:
アニメーション!?

阿部:
そう、アニメーション。でも、それを本当にやろうとすると絵にかかるコストが跳ね上がりますよね。それはあまりに非現実的なので、そのコストをできるだけ抑制しながら文章表現に依らない方法をまず模索しました。プレイヤーには”読む”ではなく”見る”に近い体験をしていただきたかったんです。そう考えたとき、残る可能性はあとはボイスかなと。

田口:
たしかにボイスには文章では伝えられないニュアンスがありますね。分かります。


第3章の食堂ではTVニュースのアナウンサーの声が環境音として入ってくる。少し耳を傾けて聞いてみると面白い。また、伴野紘太のため息一つも状況によって異なり、機微が感じられる。

阿部:
はい。それを実現するには可能な限りノンストップでしゃべらせ続ける必要があります。比率でいえば文章比較で8~9割のボイス率は達成しなければいけない。ですが、ボイスの収録にもまた制限があります。声優さんの拘束、スタジオの確保、カッティングの作業、等々。そういった前提条件を踏まえた場合、今回のコンセプトで選択肢というシステムはとてもハードルが高い。

田口:
そうですね、仰る意味が分かります。

阿部:
実際、選択肢を望まれている方がイメージするのは選択した結果がきちんとその後の展開にフィードバックされ、エンディングも複数用意されているパターンですよね。

田口:
はい、その通りだと思います。分岐が選択肢の主たる目的ですね。

阿部:
それを本気でやろうとすると分岐する数だけストーリーを用意する必要が出てくる。しかも、きちんと分岐した意味が感じられる差別化もしなければいけない。コストが指数的に増えていってしまうんです。特にインディーズ体制で最初から高コストを想定するのは危険です。いわゆる“エターナる”の状態 (制作や更新が止まる状態) に陥ってしまうので。

田口:
そうか、未完成のリスクを考えるのであれば、割り切って作業量を明確に、一点突破でクオリティを上げた方が結果的に完成度は高くなりますね。

阿部:
とはいえ、ボイスに頼り切るわけにもいかない。ある程度は画面も動かし続ける必要がある。しゃべるだけではオーディオドラマになってしまいますから。

田口:
ええ、そうですね。

阿部:
Live2Dという静止画を動画化するアニメーションツールもありますが、あれはあくまで一部をリッチに動かす局所的なツールです。キャラの“しぐさ”表現を豊かにはできても“画面が動いている”という印象を作るには向いていません。そういった事情もあって、改めて「動く画面とはなにか?」という問いを突き詰めました。その結果が「見えない (見える) 部分が意図をもって連続的に見える (見えない) ようになる」という答えだったんです。

田口:
連続性、つまりカメラワークと。

阿部:
カメラのカット割りもそうですが、ワンカットの中の例えばキャラが疾走するシーンなんかでも、大きく振った腕の反対側が角度によってチラっと見えたりすると、そこにダイナミズムが感じられるはずです。

田口:
動きの演出ですね。

阿部:
ええ。ですが、当初からあるように今回は絵にそこまでコストはかけられない。がんばってもキャラクターの目の瞬きや口の動きをやる程度が限界だろうと。そこで画面を支配するもうひとつの要素であるカメラに着眼点を移しました。空間を作ってしまって、カメラを動かすエンジンを作ってしまえば、あとはもう絵を描くコストはかかりませんよね (笑)

田口:
ああ (笑) だから常に伴野紘汰の視点で固定させたんですね。

阿部:
そう、あれの一番の理由は一定上のクオリティを保ちつつ、超低コストで長尺の作品を成立させるためだったんですよ。


伴野紘太が考え事をはじめると、視線がわずかに下に動く。対峙する相手と視線を外す。現実でもよくある所作が再現されている。


同じ空間のまま視点は奥の棚へ遷移する。琴坂真奈は距離感からぼやけて視界の片隅に。さきほどの画像からここに至るまではノーカットで、カメラがスムーズに動いてくれる。

田口:
レビュー記事にも書きましたが、かえって斬新でした。

阿部:
そうなんですよね。僕はそんなにノベルゲームに詳しくはないですけど、多くの場合ノベルゲーム=リッチな小説のような捉え方で作られているような気がして。例えば景色を説明するシーンでも、背景絵で既に表現されているにもかかわらず、さらに地の文でその情景がじっくりと描写されていたりと。

田口:
確かに。

阿部:
絵と文章で同じことを表現している。プレイヤーに「見せたい」のか「読ませたい」のか。その選択を考えた時に僕は「見せます!」と。なので、絵で十分表現されているニュアンスに関する文章は全部除去するという方針で開発したんです。

田口:
例えば伴野紘汰が言いよどむときには目を閉じて少し俯きがちになるところとか、ですよね。

阿部:
そう、それで目を見開いたら発言する、という動作も表現できました。同じように表現されているゲームがあるかも知れませんけど。

田口:
伴野紘汰と対峙する相手が、彼の目線、彼の焦点から外れると「あ、今 思慮に入ったな」というのが目で見て理解できた。主観カメラだから共感できる「間」の表現がありました。

阿部:
そうすると一本道でも周回すると新たなことが分かったり、何よりホントに低コスト。でもそのカメラワークが全力で発揮されるのが5章6章あたりからなんですよ。

田口:
確かに。後半、特に3章あたりから物語が加速していくのでシナリオ的にもそこからですよね。

阿部:
そう、だから1章でのお試しプレイだと正直魅力は全然伝え切れていないと思います。

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